AI時代だからこそ、税理士にも「センス」が必要だと思った話 ―『知的生産のセンス』を読んで―
AI時代だからこそ、税理士にも「センス」が必要だと思った話
―『知的生産のセンス』を読んで―
こんにちは!いつもありがとうございます。税理士の玉造です。
最近、『知的生産のセンス』(楠木建・山口周著、日本経済新聞出版)という本を読みました。
仕事とは直接関係のない読書のつもりだったのですが、税理士としての仕事や、最近急速に広がっている生成AIのことを考えながら読んでみると、非常に興味深い内容でした。
特に印象に残ったのが、「意外性」と「納得感」という二つの軸で考える視点です。
私はこれを税理士の仕事に置き換えながら考えてみました。
「意外性」と「納得感」で考える4つのパターン
アイデアや提案を「意外性」と「納得感」で考えると、大きく4つに分けられます。
A 意外性がある × 納得できる
「そんな考え方があったのか。でも、確かにそれならうまくいきそうだ」
B 意外性はない × 納得できる
「確かにそのとおり。でも、言われてみれば当たり前だ」
C 意外性がある × 納得できない
「面白いけれど、本当にそれで大丈夫なの?」
D 意外性がない × 納得できない
「特に新しくもないし、説得力も感じられない」
この中で、仕事として価値が高いのは、やはりAの「意外性があるのに、納得できる」ではないでしょうか。
そして、この4象限を見たときに、私は生成AIについて考えました。
「B」の仕事は、生成AIがとても得意になった
現在の生成AIは、本当に便利になりました。
私自身も仕事の中で活用しています。
例えば、
- 事業計画書の構成を整理する
- 融資資料のたたき台を作る
- 助成金などの申請資料を整理する
- 長い文章を分かりやすくまとめる
- 複数の選択肢を比較する
こうした仕事では、AIは非常に優秀です。
必要な情報や条件を与えれば、筋道の通った、きれいな文章を短時間で作ってくれます。
先ほどの4象限でいえば、AIは特に、
「B 意外性はないけれど、納得できる」
という領域を、とても高い水準でこなせるようになってきたと感じます。
銀行に提出する事業計画書などでも、売上計画、資金計画、事業の強み、市場環境などの情報をきちんと与えれば、十分に「納得感のある」資料を作ることができます。
これは大きな進歩です。
税理士としても、使わない理由はないと思っています。
では、「A」はAIに作れるのか
一方で、考えさせられたのが、
「A 意外性がある × 納得できる」
という領域です。
例えば、ある会社から、
「新しい事業を始めたい」
「売上をもう一段伸ばしたい」
「今ある経営資源を使って、何か別の展開ができないか」
と相談されたとします。
AIに現在の会社の状況を入力すれば、一般的に考えられる新規事業や事業計画をいくつも提案してくれるでしょう。
そして、それを事業計画書として整えることも得意です。
しかし、
「そんな方法があったのか」と経営者が驚き、それでいて「確かに、うちの会社ならできるかもしれない」と納得する提案
となると、話は少し違ってきます。
会社の歴史を知っている。
社長の性格を知っている。
従業員のことも知っている。
取引先との関係も知っている。
過去にうまくいったこと、失敗したことも知っている。
そして、世の中で起きていることや、ほかの業界で起きていることと結び付けて、
「だったら、こういう方法もあるのではないですか?」
と提案する。
ここには、知識だけではなく、経験や観察力、そして「センス」が必要なのだと思います。
税理士の仕事も「正しい答え」だけでは足りなくなる
税務には、法律に基づく正しい処理があります。
税率を調べる。
申告期限を確認する。
税額を計算する。
こうした仕事では、正確性が何より重要です。
そして、この領域でもAIはこれからますます活躍していくでしょう。
ただ、実際にお客様から相談を受けていると、必ずしも「税法上の正解」を答えるだけでは解決しないことがあります。
例えば、
「役員報酬はいくらにしたらよいですか?」
という質問一つをとっても、税金だけを考えて答えることはできません。
会社の利益、社会保険料、社長個人の生活費、会社の資金繰り、金融機関との関係、将来の事業計画など、さまざまなことを考える必要があります。
税金だけならA案。
資金繰りを考えるならB案。
今後の融資まで考えるならC案。
そのうえで、
「この会社、この社長であれば、私はこの方法が良いと思います」
と提案する。
こういう仕事は、単に情報を検索して答えることとは少し違います。
AIを使わない税理士にも、AI任せの税理士にもなりたくない
今回この本を読んで、改めて考えたことがあります。
私は、AIを積極的に活用していきたいと思っています。
AIを使えば短時間でできる仕事を、何時間もかけて人間が行う必要はありません。
情報整理や資料作成など、AIが得意な仕事は任せればよい。
その分、人間はもっと別のことに時間を使えるようになります。
しかし同時に、
すべてをAI任せにする税理士にはなりたくない。
そうも思っています。
AIが作った答えをそのままお客様へ渡すのではなく、
「本当にこの会社に合っているのか」
「別の考え方はないのか」
「もっと良い方法はないのか」
と、自分自身で考える。
そして、ときにはお客様が想像していなかった選択肢を提示する。
そのためには、税法だけを勉強していればよいわけではないのだと思います。
経営、金融、社会の変化、テクノロジー、そして一見仕事とは関係のなさそうな分野まで、幅広く興味を持つことが必要です。
AI時代だからこそ、学び続ける
AIがこれだけ便利になると、
「これからは知識を覚える必要がなくなる」
という考え方もあるかもしれません。
私はむしろ逆ではないかと思っています。
AIから出てきた答えが本当に良いものなのかを判断するためにも、人間側に知識や経験が必要です。
そして、AIが簡単に「納得できる答え」を作れる時代だからこそ、
「そこに何を加えられるか」
が、専門家の価値になっていくのではないでしょうか。
税務の知識を磨く。
経営について学ぶ。
本を読む。
さまざまな人の話を聞く。
実際の会社を見る。
そうした一つひとつが、すぐに仕事に役立つとは限りません。
それでも積み重ねていくことで、いつかお客様から相談を受けたときに、
「それなら、こんな考え方もありますよ」
と言えるかもしれません。
それが「意外性があるのに、納得できる」提案につながるのだと思います。
AIを使いながら、人間としての「センス」を磨く
『知的生産のセンス』を読んで、税理士としての自分の仕事について改めて考える良い機会になりました。
AIはこれからも進化していきます。
税理士の仕事も、その影響を大きく受けるでしょう。
だからといってAIと競争するのではなく、AIが得意なことは上手に任せ、人間だからこそできる部分を磨いていく。
その姿勢が大切なのだと思います。
私自身、AIを仕事の中でうまく活用しながらも、AIが出した答えをそのまま提供するだけの税理士にはならないようにしたいと思っています。
お客様のことを知り、数字を見て、話を聞き、自分の頭でも考える。
そして、
「意外だけれど、確かにそれはいいですね」
と言っていただけるような提案ができる税理士でありたい。
そのためにも、これからも税務だけにとどまらず、いろいろなことに興味を持ち、日々学び続けていきたいと思います。




